2016年2月15日月曜日

エピジェネティクス(epigenetics)


仏教が説く輪廻転生と深く関係があるかもしれない生命情報科学・遺伝学上の知見について、以下に括弧(“”)で引用する。

“エピジェネティクス(英語: epigenetics)とは、一般的には「DNA塩基配列の変化を伴わない細胞分裂後も継承される遺伝子発現あるいは細胞表現型の変化を研究する学問領域」である。
多くの生命現象に関連し、人工多能性幹細胞(iPS細胞)・胚性幹細胞(ES細胞)が多様な器官となる能力(分化能)、哺乳類クローン作成の成否と異常発生などに影響する要因(リプログラミング)、がんや遺伝子疾患の発生のメカニズム、脳機能などにもかかわっている。

<エピジェネティックな過程の例>

DNAメチル化あるいは脱メチル化により、塩基配列情報自体には変化なく遺伝子発現のオン/オフが切り替わる

メチル化・アセチル化・リン酸化などの修飾によってヌクレオソーム中のヒストンに物理化学的な変化がおき、遺伝子発現に直接的(シス型)あるいは間接的(トランス型)に影響する”(『ウイキペディア』より引用)。

“遺伝子と環境の間。氏と育ちの隙間。そこにエピジェネティックスが作用する。そして環境からの情報を取り込むことで生じた一部のエピジェネティクスは、なんと次世代へと遺伝することが明らかになってきた”(『WIRED』より引用)。

 “薬物依存症やうつ病などの精神疾患では経験を通じて染色体上のスイッチが切り替わり遺伝子の活性が長期的に変わってしまうようだ[E.J.ネスラー(マウントサイナイ医療センター)]・・・(中略)・・・現在、私たちをはじめこの分野の研究者たちは、薬物使用や慢性ストレスがエピジェネティックな変化を引き起こし、脳の反応を変えることを示す証拠を見いだしつつある・・・(中略)・・・遺伝子のほかに薬物依存症やうつ病、自閉症、統合失調症などの精神疾患の遺伝的要因について、過去数十年間の研究で未解明のまま残されている問題の答えが、これらの疾患におけるエピジェネティックな影響を調べた私たちの研究によって明らかになりつつある・・・(中略)・・・

環境要因がどのようなメカニズムで精神疾患につながるのかという疑問が浮かび上がってくる。簡単にいってしまえば答えは明白で、「生まれ」と「育ち」の両方が脳の精神細胞に作用するということだ・・・(中略)・・・経験を通じて染色体上に化学標識が付いたり取れたりすることが精神疾患症の一因となっているようだ。こうした「エピジェネティック」な標識は、遺伝子の配列ではなく遺伝子の活性を変える・・・(中略)・・・

DNAは細胞核にでたらめに詰め込まれているのではなく、糸巻きに巻かれた糸のように、「ヒストン」と呼ばれるタンパク質複合体の周りに巻き付いている。このヒストンとDNAの複合体を「クロマチン」といい、そのクロマチンが折りたたまれて染色体を構成している・・・(中略)・・・クロマチンが折りたたまれていると、遺伝子を活性化する装置が近づけず、遺伝子は不活性のままだ。・・・(中略)・・・しかしある遺伝子が必要なときは、その遺伝子のある染色体領域のクロマチン構造がある程度ゆるんで、DNAの情報をRNAに写し取る転写酵素がアクセスできるようになる・・・(中略)・・・個々の遺伝子が活性化するかしないかは、クロマチンの化学修飾によってきまるのだ。このようなエピジェネティックな変化は、化学標識を付けたり取り除いたりする様々な酵素によって生じる・・・(中略)・・・この化学修飾はほんの短期間しか続かないこともある・・・(中略)・・・しかし多くの場合は何カ月も何年も付いたままになる。一生続くことさえある。こうした長期的な化学修飾は、例えば神経の連結を強めたり弱めたりして記憶を定着させるのに役立っている。

アセチル基やメチル基などの標識が付いたり取れたりすることによって、脳は環境の変化や経験に反応して適応できている。だが、このように有益なエピジェネティックな修飾が薬物依存やうつ病ではマイナスに働くことが、私たちや他の研究室の動物実験で明らかになりつつある・・・(中略)・・・

海馬のグルココルチコイド受容体は実際にコルチゾールの産生を遅らせるよう身体にシグナルを送っているので、DNAのメチル化によってこの受容体の数が減るとストレス反応が悪化し、不安や恐怖をより感じやすくなる。この性質は生涯にわたって続く・・・(中略)・・・

エピジェネティックな修飾がほかの多くの遺伝子にも生じており、それが養育のような行動における反応プログラムに関与し、ゆえに行動様式の親から子への‘遺伝’をもたらしていることが、今後明らかになっていくだろう。


こうした状況においては、ある世代のある遺伝子に生じたエピジェネティックな変化が、生殖細胞を介さずに事実上次の世代に伝わっていくような現象が起きる。母親の行動がこの脳内の遺伝子のエピジェネティックな調節を変え、そのせいで子が母親と同じ行動を取るようになる”(『日経サイエンス誌20123月号』より引用)。